画家・庭師
自然を描き、自然をつくる。
モルドバに生まれ、14歳から芸術の道を歩み始める。
やがて中国へ渡り、中央美術学院中国画系において、伝統的な中国画と水墨の精神を深く学んだ。
モルドバで育まれた西洋的な感性。
中国で培った東洋の美意識。
そして、日本で出会った自然と、庭師として過ごす時間。
異なる文化と風土の中で重ねてきた経験は、ひとつの場所に留まることなく、静かに作品の中で響き合っている。
墨のにじみ、色彩の重なり、一本の線。
木々の揺らぎ、光の移ろい、風の気配。
ヴィタリエ・ズブコにとって、自然は描く対象であると同時に、日々向き合い、感じ、創り出していくものでもある。
絵画と庭。
東洋と西洋。
記憶と現在。
そのあいだを行き来しながら、
自然の中にある目に見えないものを、一枚の作品へと映し出している。


中央美術学院での学びと評価
北京で出会った、中国画の世界
1994年、ヴィタリエ・ズブコは中国政府国費留学生として北京へ渡り、中央美術学院中国画系で学び始めました。
伝統的な中国画の技法をはじめ、墨と線、構図、余白、そして自然を捉える東洋独自の美意識。
その一方で、現代美術への関心も深く、さまざまな表現を探求しながら、自らの感性を中国画の中へと取り込んでいきました。
1999年の卒業制作「人物創作」は、中国画系の優秀作品に選出され、学科の作品として正式に保管(留系)されました。
さらに、在学中に制作した習作2点も中国画系に収蔵され、卒業制作と合わせて3点の作品が中央美術学院に残されています。
また、当時の担任であり、中国画系教授であった李楊教授は推薦状の中で、ヴィタリエについて、東洋と西洋の文化が交わる地点に自らの芸術的な位置を見いだしていると評価しています。
それは、異なる文化を学んだ留学生としての経験を、単なる知識ではなく、自身の表現へと昇華したことへの評価でもありました。
中国で学んだ水墨の精神は、その後のヴィタリエの作品に長く息づいています。


ヴィタリエ・ズブコの作品が中央美術学院中国画系に留系されたことを示す証書。
北京での個展と作品収蔵
1999年 ― 北京での個展
中央美術学院を卒業した1999年、ヴィタリエ・ズブコは北京で初の大きな個展を開催しました。
中国政府の認可を受けた私立現代美術館、何揚呉現代絵画館から公式に招かれ、「ヴィタリ風景油絵展(维塔里风景油画展)」を開催。
そこに並んだのは、北京の街並みや胡同、中国の風景を描いた作品でした。
会場にはモルドバ駐中国大使をはじめ、各国の外交官や文化関係者らが訪れ、ヴィタリエ独自の視点で描かれた中国の風景は高い評価を受けました。
展覧会を通じて、油彩による風景画 「涼山村寨」 は同館のコレクションとして正式に収蔵されました。
中国で伝統的な水墨画を学びながら、西洋絵画の色彩と表現を取り入れてきたヴィタリエ。
その作品が、彼自身が学んだ中国の地で、ひとつの作品として公的なコレクションに加わったことは、彼の芸術の歩みにおいて大きな意味を持つ出来事となりました。


1999年、北京・何揚呉現代絵画館に油彩作品「涼山村寨」が正式に収蔵されたことを示す証書。
日本へー画家から庭師へ、庭師から画家へ
中国での学びを終えたヴィタリエ・ズブコは、日本へ渡りました。
そこで出会ったのは、中国とはまた異なる、静かで繊細な自然の美しさでした。
日本庭園の中に息づく余白、樹木の姿、石の佇まい、季節の移ろい。
自然をそのまま受け入れ、その中に美を見いだす日本独自の感性に深く惹かれ、ヴィタリエは自ら庭師の道を歩み始めます。
木を剪定し、土に触れ、草花の変化を感じる。
庭師として自然と向き合う時間は、やがて画家としての表現にも新たな深みを与えていきました。
風が木々を揺らすこと。
光が葉の間をすり抜けること。
雨のあとに空気が変わること。
キャンバスの前だけでは捉えきれない自然の気配を、日々の仕事の中で身体全体で感じ取る。
描くために自然を見るのではなく、自然と生きることから絵が生まれる。
画家と庭師。
二つの道を歩むことは、ヴィタリエにとって二つの人生ではありません。
庭をつくることも、絵を描くことも、
自然の中にある目に見えない美しさを見つけ、それを形にする営みなのです。

瀬戸内で描く、現在
鞆の浦、そして瀬戸内の風景
現在、ヴィタリエ・ズブコは広島県福山市を拠点に、鞆の浦をはじめとする瀬戸内の風景と向き合っています。
海の光、古い町並み、山の緑、四季の草花。
そこに流れる風や、刻々と変わる光の表情。
中国で学んだ水墨の精神と、西洋絵画から培った色彩感覚。
そして、庭師として自然に触れ続けてきた経験。
それらが重なり合い、瀬戸内という新しい土地の中で、現在のヴィタリエの表現へとつながっています。
鞆の浦の風景を描くことは、単にその姿を記録することではありません。
その場所に漂う空気、光、静けさ、そしてそこに生きる植物や人々の気配。
目に見える風景の奥にあるものを感じ取り、一枚の作品へと映し出しています。
2024年からは福山市鞆の浦を中心にで継続的に作品を発表し、個展を開催しています。
モルドバから中国へ。
中国から日本へ。
さまざまな土地で出会った風景と記憶は、今、瀬戸内の光の中で新たな作品として生まれています。

作品と、表現
ヴィタリエ・ズブコの作品には、モルドバ、中国、日本で培われた異なる文化と感性が静かに重なっています。
中国画から学んだ墨の深さと線の美しさ。
西洋絵画に通じる色彩と光。
そして、庭師として自然と向き合う中で育まれた、植物や季節への繊細なまなざし。
水墨、油彩、水彩、ペン、抽象表現。
技法や素材に境界を設けることなく、その時々に感じたものにふさわしい方法を選びながら、自然や風景の奥にある気配を描いています。
瀬戸内の海と光、鞆の浦の町並み、四季の草花や樹木。
そして、遠く離れた故郷モルドバの記憶。
目に見えるものだけではなく、そこに漂う空気や時間、記憶までを一枚の中にとどめる。
それが、ヴィタリエ・ズブコの描く世界です。
学歴・芸術教育
カメンカ芸術学校
アレクサンドル・プラマデアラ記念
モルドバ共和国美術専門学校
モルドバ国立芸術大学
中央美術学院 中国画系(北京)
1994年9月〜1995年7月
中国画専攻・研修生
1995年9月〜1999年7月
中国画専攻・本科
文学学士号取得
中国政府国費留学生
作品収蔵
ヴィタリエ・ズブコの作品は、中央美術学院中国画系、何揚呉現代絵画館をはじめ、国内外の大使館、ホテル、個人コレクターなどに所蔵されています。
これまでに、モルドバ、中国、日本、フランス、ルーマニア、ロシア、ドイツ、イギリス、オランダ、カザフスタン、韓国、シンガポール、チェコなど、13か国で作品が所蔵されています。
現在も、日本を訪れる海外の方々をはじめ、さまざまな国の人々に作品が選ばれ、海を越えてそれぞれの場所へと旅立っています。
これまでの展覧会
過去の展覧会については、別ページでまとめています。下のボタンからどうぞ