第3話:おばあちゃんのファラオ

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アレクサンドラおばあちゃん 2015年 スケッチ

ママァァァー!

ひどく殴られたような衝撃と同時に、体が硬直。

8歳のヴィタリに、死の予感がよぎります。
 Curiosity killed the cat.

ヴィタリの村では昔、タバコの栽培がさかんにおこなわれていました。
冬にまかれた種が春あたたかくなるまで、ビニールハウスの中で大切に育てられます。

その日、ヴィタリはいつものように相棒の「フロリカ」を牧草地に連れてきました。

フロリカ
意味は、花子
ヴィタリが14歳になるまで共に過ごした一番の友達。
すぐにどこかへ行って帰ってこないヴィタリに困った両親が、牛の番をさせればヴィタリは逃げないだろうと考え、買い与えた牛。

ヴィタリの寒い朝の楽しみは、食べたあとのボウルにこびりついているママリガに、フロリカの温めたミルクをいっぱいに注いで飲み干すこと。身体中で幸せを感じるひとときだった。


夏の陽射しの中、ヴィタリはむしゃむしゃと草を食べるフロリカをながめていました。


でも、しだいに退屈になってきます。
近くには誰もいません。立ってみたり、草をむしってみたり、寝転んでみたり、、、。
だんだん寂しさが込み上げてきます。

牛の絵
2014年 スケッチ


見えるのは、青い空と、緑の草と、フロリカと、、、
見回すヴィタリの視界のすみに、白いものが、、、
前から気になっていたビニールハウスです。

中はどうなってるんだろう、、、。
いつもは警備しているおじさんが、今日は見当たりません。

チャンス!!

好奇心旺盛なヴィタリは、フロリカから離れてビニールハウスへ忍び込みます。

9月なので、もうタバコは刈られて出荷済み。根元しか残っていません。

素早く目を一巡させます。

おや?

なにやら金属の箱のようなものが。
ヴィタリは近づいてみました。その箱のカバーは開いたままになっています。
中にはたくさんの複雑な迷路のようなものが見えます。

ヴィタリの目がぱっと輝きます!
見つけたのです、自転車の部品を。

自転車のナットが壊れたので、代わりの部品がないかと探していたところでした。
そのころモルドバは、まだソ連時代。部品はなかなか手に入りません。
ところが、目の前には、ちょうどいい大きさのナットが何個も並んでいます。

喜んだヴィタリ、ひとつだけもらおうと手を、、、その瞬間!!

ガクン‼︎

だれかから強く殴られたかのような衝撃とともに身体がこわばりました!

「ママァァァー‼︎」

感電です!
持ち主が暖房の点検後、カバーを閉めるのを忘れて、電源が入ったまま
配線がむきだしになっていたのです。

身体がしびれます。うごけません。まるでコンクリートのようです。

驚くヴィタリ
2014年 スケッチ

と、その時!脳から指令が!!

ニゲロー!

我にかえったヴィタリは、走る走る!
フロリカを置いて、スタコラサッサ。
一目散に恐怖の場所から逃げていきます、、、
といいたいところですが、足がなぜかスムーズに動きません。

ガチャガチャと、進んでいきます。とにかく前へ、前へ!

ヴィタリロボットは死の恐怖から逃げつづけます。
心臓が大きな音を立ててせかします!
優しいおばあちゃんの家へ!!

おばあちゃんはキッチンにいました。
ヴィタリロボットは、ガタンガタンと階段を登り、やっと家に入りました。
目をやると、いつもはにぎやかで、やんちゃなヴィタリが、ちんまりと座っています。
様子がおかしいと思いながら、動かないヴィタリの顔をのぞきこむと、、、、

真っ白!血の気がありません!

パブルーシャ、どうしたの‼︎

◇☆○△☆★、、」

放心状態の口は震えるばかりで、言葉にならない、、、

「いったいどうしたの?!なにがあったの?」


大好きなおばあちゃんの、大きく見開いたあたたかな瞳が、真っ直ぐに心に差し込みます。
体の中に、なにか熱いものがどっと押し寄せ、ヴィタリはせきをきったように泣き始めました!


ひとしきり泣いた後、孫は、ゆっくりと起こったことを話しはじめました。

すると、優しいおばあちゃんの温かな手が伸びてきて、ぎゅっとだきしめ、、、??!!☆◇☆

お前、全くバカな子だよっ!
なんでもかんでもさわって!死んじゃうよっ!!
まったくほんとに! このファラオ‼︎」

ファラオ

聖書に出てくるエジプトの王。神の命令にかたくなに従わず、モーセ率いるイスラエル人を追いかけ、紅海で神の手にかかって滅びた人物。
村の近くに、昔、ユダヤ人(イスラエル人)の共同体があった名残で、反抗的な子や良くないことをした子に向かって、「ファラオ!」と叱るのがアレクサンドラの口癖だった。



「優しく抱きしめてもらって安心するボク」
というシナリオを思い描いていたヴィタリは、何が何やらわかりません!

それは、命の危険をおかした大切な孫への、愛情あふれた戒めでした。

その後、ヴィタリはおばあちゃんのできたてのおいしいママリガを、
お腹いっぱいに食べました。

感電により硬直していた体も回復して元気をとりもどし、
置き去りにしてきたフロリカを、その日のうちに迎えにいきました。

こうして、何でも触る癖のあったヴィタリ少年の、8歳の夏休みは終わります。

ふるさと おばあちゃんの家
2014年 スケッチ おばあちゃんの家

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モルドバ伝統料理 ママリガmămăliga の作り方

材料

水       3カップ
塩       小さじ1
バター     大さじ2
コーンミール  1カップ

おばあちゃん
おばあちゃん

ママリガは 家庭によって色々な作り方があるのよ。

まさに、家庭の味ね。ママリガは、心を込めてゆっくりつくるのがコツ。

栄養たっぷりだから、ぜひ試してみてね!

① 鍋に水を入れて沸騰せ、塩とバター(または、オリーブオイル)を加える。

② コーンミールの約1/3カップを鍋の真ん中に振りいれながら、水を一方向にかき混ぜる。ふたたび沸騰したら残りのコーンミールを注ぎ、ダマにならないようによく混ぜ続ける。泡立て器を使うとうまくできる。

③ 火を弱め、コーンミールがもったり固くなってきたら、鍋に蓋をして時々かき混ぜながら弱火で10〜15分ほど煮る。食べてみて小さな粒がジャリッという感じから、プルッという感じになると出来上がり。

次の行程は、可能ならすると良い。そのまますくってお皿に入れても良い。

④(できあがった鍋の中のママリガの真ん中に、濡らした木のスプーンの柄をさし、数回、ママリガを剥がすようにして回転させる)鍋をまな板の上にひっくり返し、慎重に持ち上げてママリガを外す。鍋にこびりついたママリガに牛肉を注ぎ、加熱してママリガミルクに。とてもおいしい。

スライスし、バターとサワークリーム載せて食べると良い。 残ったママリガは冷たいまま食べても美味しい。

食べ方

※ママリガは、スプーンですくってお皿に乗せてもいいし、ケーキのようにカットしても良い。オムレツや、チーズ、肉料理に添えてご飯やパンの代わりとして食べる。冷えるとかたくなるので、熱々をいただく。カレーに、ご飯の代わりに添えて食べるのがオススメ!とてもおいしい!!


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